日本人は、「忍耐は美徳」という国民性を持っている。それは素晴らしいことではあるが、他人の痛みに対して無頓着になってしまうという弊害もあるのではないだろうか。
 またそのため、世間では「痛みは、気の持ちよう、気持ちを強くして我慢する」という考え方を持つ人が多いようだ。しかし、そういった考え方が、わが国の痛み医療の遅れを招いているという一面があると思う。

 痛みは、一般的に、身体の異常を知らせる警告信号ととらえられている。しかし、脊髄の障害や脳卒中などによる神経障害性疼痛、線維筋痛症、CRPSなど警告信号としての働きのない、無意味な激しい痛みを持つ患者がいる。そうした患者の多くは、正しく診断されず、理解されないことを嘆き、絶望し、あるいは侮辱され傷つき、痛みに立ち向かう気力さえ奪われた状態に置かれている。
 
 このような患者が救われないのはわが国の医療制度の問題も大きいと感じている。
 例えば、このような痛みには、抗てんかん薬、抗うつ薬などの一部に、効くと証明されたり期待されたりしているものがある。しかし、それらはわが国では、痛みに関する適応がなく、保険適用の対象になっていないために使用できない。
 更に、大麻の薬効成分であるカンナビノイドは、このような痛みに有効であるとされ、海外では、治療に使われ始めている。しかし、未だわが国では、医療用に使うことを懲役刑でもって罰するとしている。
 また、難渋する痛みへの対応として、諸外国では、各科が連携して治療にあたる「学際的痛みセンター」が多数設けられているようだ。そこでは、患者の治療だけでなく、医師への教育も行われており、そのため一般の家庭医も痛み治療に関しての知識が充実しているという。
 
 私の妻も、脊髄の障害による耐え難い痛みを持つ一人だが、今のところ日常生活は保たれている。それは、痛みを理解し、共に闘ってくださる医師とめぐり会えたという幸運があったからだ。そのようなめぐり会いのない患者さんは、日常生活もままならず、声さえ挙げられず苦しみ続けている。 幸運に頼らずとも、すべての患者が救われる仕組み作りを切望している。
 
 厚生労働省は、わが国の痛み医療が諸外国に比べ遅れていることにようやく気づき一昨年の暮れから「慢性の痛みに関する検討会」を開催し対応を始めた。
 
 この動きの進展のため、患者やその家族が力を合わせて働きかけていく必要があると思う。

 他人の痛みを思いやれる社会が構築され、
 痛みに苦しむ人々の苦しみが
 少しでも和らぐことを願わずにはいられない。
 
 
「慢性の痛みに関する検討会」からの提言
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000ri9u-att/2r9852000000ribb.pdf

厚生労働省への要望や質問はこちらへ↓
https://www-secure.mhlw.go.jp/getmail/getmail.html
 
 
【こちらもご覧下さい】 http://www006.upp.so-net.ne.jp/wakasama/
脊髄損傷後の難治性疼痛について→ http://www006.upp.so-net.ne.jp/wakasama/itami/