令和元年11月23日(祝)
どげんかせんといかん日本の慢性痛治療 ~その痛みをあきらめないために相互に連携を~
内容報告


《講演②》暮らしの中の東洋医学
   ~こころと体を調え、痛みを和らげる鍼灸~

 真央クリニック附属鍼灸室長 長湯鍼灸院院長 成田響太

   

本日は、鍼灸の治療の様子をお伝えすることで、会場におられるみなさまが何かを感じ「こんな世界もあるのだな」と感じていただければと思いお話させていただきます。慢性痛の治療の基本は、適切な食事、運動、睡眠、メンタルマネージメントです。日々の暮らしの中に、原因とその解決策があることが多いと思います。

 

■時代は変わる

ところで、サザエさんに出てくる磯野波平さんの年齢はいくつだと思いますか。54歳です。みなさんの想像よりかなり若いと思います。この50年で50代の男性と、そしてもちろん女性も印象が変わりました。時代は変化します。新しい考え方、生き方が必要かなと思います。人生100年時代になり、それに応じた体のメンテナンスが必要です。慢性痛の考え方も昔とずいぶん変わってきました。

 

私は、鍼灸師、あん摩マッサージ師、指圧師です。私は、鍼灸師として20年間病院やクリニックで働いてきました。以前の職業はサッカーのコーチです。清水エスパルスでコーチをしていました。エスパルスでは、食事指導もしていました。東洋医学でも、鍼灸・漢方薬だけでなく、薬膳も大切にされていますよね。

 

■鍼は怖くない、お灸は熱くない

鍼を打っている風景を見てください。鍼が痛いと言われることはまずありません。でも、鍼をとても怖がる人に、鍼は打ちません。お灸やマッサージで対応します。次はお灸の様子です。ヨモギの葉っぱの裏のふさふさしたものを使います。お灸の熱さは、患者さんの感受性によって変えています。ですから熱くて苦痛だということは、まずないと考えてもらっていいです。

 

■症例①鍼灸の速効性1

ところで慢性痛に鍼は効くのか、実際の患者さんについて話したいと思います。一人目は、30代男性で3か月前からの腰痛。嘉手納基地の軍関係者です。3つの整形外科で、シップ、痛み止め、注射、リハビリなどを行うが痛みが改善せず、一人で歩けないので奥様の肩を借りて、私の部屋までいらっしゃいました。痛すぎて最初の2週間は寝たきりだったといいます。骨は異常なし。下肢の症状もなしです。腰痛の場合、急性期から動いた方が治りは早いことが多いです。ですので腰痛になったら医師や鍼灸師に確認の上、動くようにした方がよいと思います。この男性は、この日15分くらいの治療で、帰りは1人で歩いて帰りました。この男性は、不眠の傾向が強かったので、沖縄の知り合いの医師にお願いして眠るための漢方薬も処方してもらい、不眠も快方に向かいました。

 

■症例②鍼灸の速効性2

この写真の女性も、私が沖縄に行ったときに、私の宿泊先まで訪れた嘉手納基地の軍関係者です。この方も腰痛でした。来るときはつらそうに歩いていましたが、治療後は颯爽と歩いて帰りました。私は琉球大学医学部で鍼灸の講義をしていますので、沖縄に行くことがあります。その時には宿泊先に患者さんが訪れるという流れが続いています。

 

■症例③自分と相性の合う鍼灸師の先生を見つける

70代の女性。40年前からの背部痛、そして全身に痛みがあるということです。一番つらいのは背中でした。あらゆる治療を受けたがよくならない。40年前、盲腸の手術をしてから痛くなりました。頭のてっぺんから足先まで(右側の膀胱経という経脈に沿った痛み)痛かったようで、医師から「人間そんな長い神経はない」「あなたの気のせいです」と言われたのがつらかったそうです。1度の鍼灸治療で「40年続いた痛みがとれました。鍼は不思議ですね。楽になれました。」と語りました。食事が、淡白だったので動物性たんぱく質を摂るようにアドバイスしています。水泳が好きだったということで新しい水着を買ってプールに行くことを提案しました。もちろん、最初は無理のない範囲で歩いたり動いたりするようアドバイスをしました。

 次は、この方の治療風景です。盲腸の手術痕の痛みをとるためにお腹にお灸をしています。この方は、これまで鍼灸での治療も試みていますがうまくいきませんでした。自分と相性の合う鍼灸師の先生を見つけるということも大切なのかもしれません。

 

■患者さんの背景に注目する

痛みがあるとどうしても動く時間が減ります。そうすると筋肉も落ちます。食欲もなくなります。体力も落ちます。その結果、さらに動かなくなるという悪循環が起こります。ですから適度な運動が大切です。そして、筋肉を増やすため、筋肉を落とさないためには、たんぱく質が必要です。適度な運動というのは、人によって全く違います。ひどく重篤な人は、まったく動けないこともあるでしょう。寝たきりの人が、足を3回上げるだけでも適度な運動になることもありますし、30分ジョギングできる人もいれば、2時間ジムで鍛える人もいます。人によって全く違うというのが重要なポイントです。ベッドの上でひたすら痛みと闘ってらっしゃる患者さんには、その人に合った刺激を提案しなくてはなりません。そのほかに家族関係や子供のこと、経済的な問題、難病、事故など様々なことで悩んでいらっしゃる患者さんは多いので、患者さんの背景に注目して向き合っていくことが大切になります。

 

■症例④東洋医学と西洋医学のバランス

ここまでの話を聞くと「西洋医学はダメ、東洋医学は素晴らしい!」と言っているように聞こえるかもしれませんが、そういうことはありません。西洋医学と東洋医学のバランスが大切だと考えています。私は、整形外科で6年働いていたので、優秀な整形外科医が見事に患者さんの痛みをとっていくところを何度も見ています。

このケース(50代 女性)は、整形外科では手指の変形性関節症と診断されていました。私が、初めて診た時に「専門の先生に診てもらった方がいいな」と思ったケースです。つまり「整形外科の疾患ではないな」と思ったわけです。その後、私が紹介したクリニックで診断された病名は、乾癬性関節炎でした。私が親しくしている膠原病に詳しい医師に紹介したケースです。西洋医学的治療に加え、鍼灸も継続しておこなった結果、数か月で手指の痛みは日常生活に支障のない範囲におさまっていきました。

私が乾癬性関節炎かと思っても、鍼灸師という立場上、患者さんに、その(西洋医学の)病名を告げることはありません。ただ、こういう病態なら、医師の力を借りた方がいいと思いました。そう考えたらすぐに医師に紹介状を書きます。

ところで鍼灸治療は何をしているのというと「気の流れを良くして心と体が正常に動くようにスイッチを入れている」ということになると思います。気の流れが滞ると痛みやストレスの閾値が下がる。つまり痛みやストレスを感じやすくなるということです。

 

■症例⑤肺癌には、消化器のフォロー?

次のケースは、71歳男性、左手の痺れを主訴に、医師からの紹介状で受診された方です。頚椎症性神経根症という病名がついています。一か月半前からの左頚部、左上肢の痛みなので2~3回目の鍼灸治療でよくなりました。やはり、経過が短い方が早く治ります。その後10年して娘さんからのお薦めで再び来院。食欲がなく、だんだん体重が減る。本人は「このまま癌で死ぬのではないか」と言っていました。肺癌のステージ4で。この時81歳でした。

横になっている時間が長いので、頚、肩、腰などに痛みが出るとその都度、鍼灸で痛みはとっています。この方は、骨転移はしていません。東洋医学では、食べられなくなると肺の病の症状が悪化すると捉えます。そこで、食べているものを聞いてみると、お粥とかそうめんとかあっさりしたものがいいということでした。これでは全く栄養不足です。特にたんぱく質が不足しています。早く食欲が戻るよう鍼灸で消化器の治療をしました。そして、少しずつでよいのでたんぱく質を摂るようアドバイスしました。すると、食事がおいしく食べられるようになって体重が増えてきました。このときの問題は、癌そのものより栄養不足だったのかもしれません。随分元気になられました。

 

■症例⑥便秘の治療が功を奏した例

最後は、50代女性。40年前から続く頭痛。頚肩の痛み、コリがひどくほぼ毎日痛み止めを服用。4年前からは頚肩の痛みが悪化。最近は、突発性難聴にもなり耳鳴りが継続している方です。治療のポイントは便秘の治療。便秘が改善することで体の上部にこもった熱が下がり、頭痛、頚肩の痛み、高血圧の症状が和らぎました。この時、9種類の薬を服用していたのですが、その後、降圧剤1つだけに減りました。それも降圧剤は以前の半分に減りました。運動習慣がなかったのでウォーキングや筋トレをお勧めしました。ヨガを提案することもあります。ヨガもマイルドで体に無理のないものから入るとよいと思います。私も大分で何人ものヨガインストラクターとつながっていて、患者さんにヨガのインストラクターさんを紹介することもあります。この患者さんは「痛みで気分が鬱々としてしまう」「一番の気分転換はお友達とのカフェ」と言うので「カフェに週1回は行きましょう!」と具体的にアドバイスしました。

大分で、医師・医療者向けの東洋医学勉強合宿をやっているのですが、プログラムに必ずヨガを入れています。

 

■鍼への期待

時代は変わってきています。新しい時代のハイブリッドな医療。西洋医学×東洋医学、そのほかの様々な治療法を連携させる時代に来ています。東洋医学を学びたいという若い医師・医学生がとても多くなっています。

癌患者さんに対するケアでは。鍼やヨガ、瞑想などが医療の分野に入ってきています。特にアメリカでは、麻薬系の鎮痛剤の副作用の問題から鍼への関心がとても高まっています。

鍼灸の良いところの一つに、患者さんと長い時間関わることができるという点があります。患者さんが、なかなか言えなかったことを、私たち鍼灸師が聞き出せるということがあります。素敵な鍼灸師の見つけ方として「必ず治ります」と言うところには行かない方が良いと思います。通いやすい距離にあることも大事です。

 

■まとめ

今日のまとめですが大切なのは、適切な食事、運動、睡眠、メンタルマネージメントです。つまり日々の暮らし方が大切です。“適切”というのがポイントで、頑張りすぎる人には「あまり動かないでください」と言わなければなりません。東洋医学では、慢性痛は心≒脳の問題と考えています。心の緊張が筋肉のこわばりにつながっているというのが一般的なパターンです。

鍼灸に興味を持った方は、お近くの鍼灸院に行ってみましょう。ご自分のための小さな一歩を踏み出してみましょう。

※これは、各講演者の皆様のご講演をお聞きした内容を事務局(若園)が理解した範囲で文書化したものです。従って、ご本人の意図と違う内容になっている場合もあることをご理解の上お読みいただきますようお願いいたします。尚、この文書の一切の責任は、事務局にあります。

《他の講演などへのリンク》
主催者挨拶「その痛みをあきらめないために相互に連携を」
難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事  若園 和朗


講演① 「患者だからできること~慢性痛マネジメントの為のリハビリ生活とヨーガ~」
YOGINI ヨガと子供未来教室代表  新里 美帆


講演② 「暮らしの中の東洋医学 ~こころと体を調え、痛みを和らげる鍼灸~」
真央クリニック附属鍼灸室室長、長湯鍼灸院院長  成田 響太


講演③ 「慢性痛に対する遠絡療法の可能性」
国際医療福祉大学副学長、九州地区生涯教育センター長 外 須美夫


講演④ 「痛みと筋膜」
トリガーポイント研究所所長  佐藤 恒士


講演⑤ 「痛みに漢方治療を!」
平田ペインクリニック院長  平田 道彦