カテゴリ: 痛み

大麻の医療目的使用を妨げるマリファナ解禁論

 

1 はじめに

 昨年暮れ、国連麻薬委員会はこれまで禁じていた大麻の医療利用を認める判断をしました。賛成27、反対25、棄権1と半数近くの国が反対する中での採決です。日本政府も反対票を投じましたが、厚労省はすでに大麻製剤の治験を認める判断をしていますので(参1、それとは矛盾した意思表示です。我が国は、なぜ大麻の医療利用を認めることができないのでしょうか。

 大麻(マリファナ等)は乱用すれば社会や個人の健康安全への脅威となる薬物です。しかし、その作用機序が明らかになるにつれ、これまで治療の手立てのなかった患者を救うための医薬品としても期待されるようになってきました。であるなら、モルヒネなどと同じように乱用は禁じ、医療目的だけ認めればよいと考えるのが自然です。ですが、日本だけでなく世界中の多くの国で医療目的使用と快楽目的など非医療使用との切り離しができず歪んだ状況が続いています。

 この歪みを解消して必要な患者に必要な大麻の薬効を届けることはできないのでしょうか。以下の文をお読みいただきこの複雑な問題解決のための一助としていただけましたら幸いです。

 

2 若者の未来を奪うマリファナ解禁論

 近年、我が国において若者の大麻の乱用増加が社会問題になっています(参2)。その原因の一つは、大麻の娯楽目的使用を解禁したいと目論むいわゆるマリファナ解禁論者が、大麻は安全などとSNSなどで拡散していることだと言われています。若年層の大麻常用は、知能低下、自殺の増加など彼らの未来に深刻な害を及ぼすとの報告が増えているにも関わらず (参3)本当に残念で腹立たしい行いです。

 

3 間違ったメッセージ

 そんな中での、国連麻薬委員会の決定です。日本政府などは一定の医療的価値を認めながらも反対し、その理由として、大麻の規制が緩和されたとの「誤解」を招き、大麻の乱用を助長するおそれがあること(4)、特に青少年の非医療的使用の増加が心配されることを挙げました (参5)

 この国連麻薬委員会の決定について、日経新聞は、「大麻を“最も危険”分類から削除」とのタイトルで報道しました。ですが実際は乱用や中毒の危険性については三段階のうちの最も危険な分類のまま変更しておらず「“医療用途がない”分類から削除」と表すのが「誤解」を避けるためには適切です。大手新聞がこのような「大麻の害は大した事がない」という間違ったメッセージになりかねない形で報道してしまう状況では、日本政府が「誤解」を心配し反対するのも当然でしょう。日経新聞の報道方針に不安と疑問を感じます(6)こうした「誤解」を生む情報があちらこちらに見られるようになっています。

 

4 賢明な判断を損ねる陰謀論

 睡眠薬にしろ、痛み止めにしろ、医療目的のものを目的外に使ってはいけないのは当たり前ですが、大麻の場合それを理解できず「薬になるのだから安全、健康に良い」と解釈する残念な層が一部に存在するため大麻を医療目的に使用することをややこしくしています。

 そのほか、「天然のものだから体に優しい」とか、「もともと体内にあるものだから安心」などという合理的とは言い難い理由で害がないかのように語ったり、あるいは、大麻規制の歴史をほじくり返して陰謀論を仕立て上げ、マリファナ解禁論が正義であるかのように喧伝したりする人までいます。

 また、深刻な薬物禍に苦しむ欧米の一部の国がとっている「ハームリダクション」つまり、「現実に即した薬物危機の低減政策」の一環で行うマリファナへの寛容化を日本に当てはめるのも的外れです。もちろん、依存症になってしまった患者への治療方針など学ぶべき点は多いことは認めます。しかしそれ以前に、我が国は規制薬物の乱用が格段に少ない薬物禍から守られた社会である(4)ことを誇りとして、マリファナ等の蔓延防止に最善を尽くすことが肝要なのではないでしょうか。予防に勝る治療はないのですから。

 

5 最悪のドラッグラグ「医療大麻問題」

 筆者は、7年前“最悪のドラッグラグ「医療大麻問題」”と題し脊髄損傷後の激しい痛みと対峙する患者家族の立場から、大麻の医療目的使用の許可を求める文章を公表しました(参7)

 それは、ネット上に拡散されましたが、その多くが快楽目的と医療利用をごっちゃに語り、マリファナ解禁を正当化するためのものでした。快楽目的と医療利用では次元が全く違う事柄です。また医薬品を自由勝手に使えば害が益を上回るのは必至で、病に苦しむ患者をさらに窮地に追い込むことになります。

 患者を救いたいとの願いで公開した文でしたが、趣旨に反する反応に困惑しました。このようなマリファナ解禁論者の言動があるため、純粋に大麻の医療目的使用を求める患者や医療者は声を挙げづらくなっています。

 

6 大麻等の薬物対策のあり方検討会

 こうした複雑な大麻問題の解決を目指して厚労省は「大麻等の薬物対策のあり方検討会」をこの1月に立ち上げました。この検討会を通じて、ほかに治療の手立てのない患者には厳格な医学的な管理のもと大麻が施用できる体制づくりのための方向付けがなされることを期待します。その中で最大の課題とすべきは、安易なマリファナ解禁論の拡散をいかにくい止めるかいうことではないかと思うのですがいかがでしょう。

 

《付記》大麻とマリファナについて

 大麻とは本来、アサ科アサ属つまり植物としてのアサ(麻)の別名で、亜麻(リネン:アマ科)や苧麻(ラミー:イラクサ科)やその他の「麻」と呼ばれる植物との混同を避けるためなどに用いられる名称です。そこから転じて「神社のお札」「アサから作られるマヤク」などの意味に用いられます。この文章では、「大麻取締法(参8)」上の「大麻」、即ちアサの乱用目的で使用される可能性のある部位である主に葉と花穂とそれから作られる製品の意味で用いました。

 アサから作られるマヤクは、マリファナ・ガンジャ・ハシシなどと呼ばれますが本文ではこれらをまとめて「マリファナ等」または「マリファナ」としました。

 

【参考URL

(1http://medg.jp/mt/?p=8992

(2https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201806/3.html

(3) https://newsroom.unsw.edu.au/news/health/daily-cannabis-users-less-likely-finish-high-school 

  https://www.drugabuse.gov/publications/research-reports/marijuana/what-are-marijuanas-long-term-effects-brain

(4) https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000723426.pdf

(5) https://www.unodc.org/documents/commissions/CND/CND_Sessions/CND_63Reconvened/statements/02Dec_partI/Japan.pdf

(6) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66935310T01C20A2I00000

(7) http://medg.jp/mt/?p=2081

(8) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000124

 

 なお、筆者は、伝統継承目的の麻栽培が認められた地域に生まれ育ち、言わば日本の大麻を守るべき立場にいます。日本の麻の伝統は乱用とは無縁ですが、マリファナ解禁論のあおりを受けて存続の危機にあります。この件については、別に述べさせていただきたいと思います。

 

難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事

日本麻協議会事務局代表

若園和朗

医療ガバナンス学会 (2021年2月22日 06:00)より転載しました。
Vol.037 大麻の医療目的使用を妨げるマリファナ解禁論 | MRIC by 医療ガバナンス学会 (medg.jp)

令和元年11月23日(祝)
どげんかせんといかん日本の慢性痛治療 ~その痛みをあきらめないために相互に連携を~
内容報告

《講演⑤》痛みに漢方治療を!


     平田ペインクリニック院長 平田道彦

 

 今日は、痛みに漢方治療をぜひ使っていただきたいというお話をします。

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■症例①心身の疲労をとる
 まずこの女性を見てください。非常ににこやかな70代後半の女性です。「先生は、顔色が悪いからリポビタンDでも飲んで元気になってください」と毎回、もってきてくれます。この女性が4週間前どんな様子だったかというと・・寝たきりでした。「全身が痺れる。痛い。眠れない。味もしないので食べられない。いろんな病院に行ったけれど、薬もたくさん飲んだのに治らない。こんなに痛くて痺れるのなら生きていても仕方がない」と訴えておられました。そこで、眠られない、食べられないことに着目して、いろいろな痛みもあるだろうけど、まずは心身の疲労をとってあげようということである漢方薬を処方すると、先ほどのほがらかな女性に生まれ変わりました。僅か4週間です。
 
■症例②心と体の両方を診る
この年配の女性は、ストレッチャー式車いすで診察室に入ってきました。背中や腰が痛くて起き上がれず、大きな声で「なんとかして、先生」と叫んでいました。MRIを撮ってみたところ、古い圧迫骨折の跡がなんと8か所もありました。見るだけで痛々しいMRI画像ですが、もう治っている骨折なので痛みの原因ではないと考えられます。背中の筋肉がものすごく緊張してしまって、それが痛みの原因になっているのではないかと考えました。それと、大声を出しておられているということは精神的緊張がありますので、このような状況になっているんじゃないかと考えました。そこで、筋肉の緊張と精神的な緊張を同時に弛める漢方治療をしました。2週間で、立位が可能になりました。やはり、心(精神)と体の両方を診ていくことが大切だとわかる症例でした。
 
■症例③頚椎からくる痛み
歯が痛い40代の女性ですが、8年前に歯が痛くなりました。色々な歯科治療を受けましたが痛みがとれませんでした。最近は寝られないくらい痛い。大学病院で専門的な治療も受けたが変わらない。抜いても痛みがとれないのだから原因は歯ではない。ということで、話をよく聞いてみると、交通事故で頚を痛めたことがあるとのこと。頚、頚椎からくる痛みがあると言われているので、頚の緊張をとる漢方薬と、ぽっちゃり型の体形を考慮した漢方薬を処方しました。1週間後、「痛みが10分の1くらいになり、鬱々としていた気分もすっきりしました。」と喜んで診察室に来られました。 
今日、頚の骨は多難の時代です。交通事故だけでなく長時間のスマホやパソコン、寝具、特に枕が合わない方もいらっしゃいます。頚をいためると首だけでなく、顔や歯が痛くなることも知っておいていただけるとよいと思います。
 
■症例④手術後の痛み
この方は、頚髄にできた腫瘍を手術でとった方です。60代男性で、8か月前に手術をしました。骨も削りましたので金属で固定してあります。その手術の後に、「左の腕が痛い、痺れる、麻痺があって握れない」という症状が出てきました。当然、手術した医者は、「あきらめなさい。腫瘍がとれたのだから良しとしなさい。」との仰りようです。腫瘍が神経に触っていたのですから、神経は傷つきます。腕に行く神経を傷めざるをえないのは仕方がないことです。ですから、漢方治療とは言ってもチャレンジのようなものです。頚の筋肉が緊張していると考えられるので、頚の緊張をとる漢方薬を使ってみました。神経の回復に良いとされる漢方薬がありますので、それも混ぜて使ってみるということをしました。長くかかりました。4ヶ月後「細かい動作がしやすくなって、痛みも和らいできた。」と話されました。
 
■症例⑤体質に注目する
この方は、50代の女性。2mの高さから転落し腰などを強打されました。右の腰から足にかけて激痛が走って身動きがとれない。ですが調べても骨折などはない。入院して詳しく検査しても痛みが全然取れない。痛み止めも効かないということで紹介されてきました。体質に注目し、いわゆる水太りの方なので、余分な水分を減らしていこうという漢方薬と、打ち身やねん挫によく効く漢方薬を処方しました。3週間後、元気に立つことができるようになりほぼ完治しました。どうして、こういうことが起こるのか私自身にもよくわかりません。ですが、西洋医学と東洋医学では、痛みとその治療の捉え方が違うということは言えると思います。

■西洋医学と漢方
 痛みがあると西洋医学では、鎮痛薬、鎮痛補助薬、神経ブロック、手術、リハビリテーションなどが使われます。治ればいいのですが、本日のテーマの慢性痛ということになるとそうはいきません。西洋医学的なアプローチだけではむずかしいことは、お気づきのことと思います。なかなか治らないだけではなく、場合によってはその痛みを更に大きくしてしまうということも起こっています。こういう状況ですので、「私はどこへ行ったらいいの」という痛みの難民になっておられる方が大変多いのではないでしょうか?
 漢方では、痛みを単純に考えません。痛みを抱える方の性格にも目を向けます。真面目で気が小さく、心配性の方は「この痛みを抱えて私はどうなってしまうんだろう」と毎日考えます。のんびり屋さんだったらそうは考えません。神経質な方は、「また悪い病気を引き起こすのでは」とか考えてしまいます。次に体質にも配慮します。冷え性の方、汗かきの方、血流の悪い方、消化管の悪い方はたくさんいらっしゃいます。それと生活も重要です。季節の変化、忙しさ、周りの理解、職場・家庭の環境、こういうものが痛みを取り囲んでいるのではないかと漢方では考えます。
ですから、西洋の鎮痛剤、鎮痛補助薬だけで治療しようとしても効かない、届かないのですね。でも漢方は、性格・体質・生活に考えを及ぼし、それらの影響をなるべく少なくして痛みをとっていこうという戦略です。漢方で治療を行うと痛みがとれるだけでなく患者さんが非常に元気でハッピーになります。
 
■人間の痛みに対してのアプローチを
ぜひ、痛みがなかなか治らなかったら漢方治療を試していただきたいと思います。「痛み」は、神経や筋肉や骨が痛いというだけではありません。ここにお集まりの方はすでにご存じだと思いますが、その人の体質、性格、生活、・・これまで抱えてきた歴史、現在の状況、将来に対する不安・・つまり人生といってもいいかもしれない、そういったもの全部含めてその方の「痛み」と捉える必要があります。そこに注目しないで慢性痛がとれるはずはありません。いろんな治療指針が出ていますが、そういったところにまで考えを及ぼしたものを私はまだ見ておりません。
ぜひ、日本の慢性痛治療が、人間の痛みに対してアプローチできるような形になってほしいと願っています。本日の企画はそのためにしました。
 
■最後に、漢方についての誤解を解く
最後に、漢方についてよくある誤解について話します。「漢方は長く飲まないと効かない」と皆さん言いますが、そんなことはありません。先ほど示したように早い人は二三日で効きます。「副作用がない」というのも嘘ですので注意が必要です。「漢方は高い」という人がいますが、幸いなことに日本では、保険適応になっており安く使うことができます。
 
 


※これは、各講演者の皆様のご講演をお聞きした内容を事務局(若園)が理解した範囲で文書化したものです。従って、ご本人の意図と違う内容になっている場合もあることをご理解の上お読みいただきますようお願いいたします。尚、この文書の一切の責任は、事務局にあります。

《他の講演などへのリンク》
主催者挨拶「その痛みをあきらめないために相互に連携を」
難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事  若園 和朗


講演① 「患者だからできること~慢性痛マネジメントの為のリハビリ生活とヨーガ~」
YOGINI ヨガと子供未来教室代表  新里 美帆


講演② 「暮らしの中の東洋医学 ~こころと体を調え、痛みを和らげる鍼灸~」
真央クリニック附属鍼灸室室長、長湯鍼灸院院長  成田 響太


講演③ 「慢性痛に対する遠絡療法の可能性」
国際医療福祉大学副学長、九州地区生涯教育センター長 外 須美夫


講演④ 「痛みと筋膜」
トリガーポイント研究所所長  佐藤 恒士


講演⑤ 「痛みに漢方治療を!」
平田ペインクリニック院長  平田 道彦



令和元年11月23日(祝)
どげんかせんといかん日本の慢性痛治療 ~その痛みをあきらめないために相互に連携を~
内容報告

《講演④》痛みと筋膜

   トリガーポイント研究所所長 佐藤恒士

 

痛みの改善には、栄養・運動・心理が大切で、特に栄養のバランスがとれていないと本当に痛みは治りにくいと感じています。今日は、痛みと筋膜というテーマでお話しをします。

筋筋膜性疼痛症候群の概念は、ケネディ大統領の主治医であったトラベルさんという方が提唱しました。その論文の中で「慢性的な痛みを持っている患者のほぼ半分は永続的な回復を得るためにビタミン不足の問題を解決する必要がある」「自覚されていないビタミン欠乏症の罹患率は異常に高い」と述べています。

これから、痛みと筋膜について話していきますが、運動の面では筋のバランスということでお話ししたいと思っています。私たちは、生まれてこの方いろんな歩き方とか体の使い方のくせを持っています。くせを持っているということはいつも使われているところと使われていないところがあるということになります。そういったところから筋肉や筋膜のバランスが悪くなって痛みが治りにくくなっているという面があるということも話していきたいと思います。

 

栄養運動心理の三つが整っていてもなかなか治りにくくなっているので治療をして補っていくという考え方だと思います。

 

■トリガーポイントとは

まず、トリガーポイントとは何かというお話をさせていただきます。トリガーポイントとは、Wikipediaによると

     圧迫や針の刺入、加熱または冷却などによって関連域に関連痛を引き起こす体表上の部位のことである

     トリガーポイントの留意点としては、疼痛を自覚している部位に多くは存在するけれども、かけ離れた部位に見いだされることもある点である。

トリガーポイントの成因に関しては不明な点もあるが、筋肉を損傷したり酷使したりすることにより生じた筋拘縮が主因であると考えられている。・・とされています。

 

では、いくつかトリガーポイントが起こす痛みの例をみてもらいたいと思います。

腸肋筋という背中側にある筋肉では、骨盤の上の縁辺りにトリガーポイントができるとお尻のあたりに痛みを感じます。お尻が痛いのでシップを貼ったりマッサージしたりしますが治らず、トリガーポイントのところを指圧したりするとお尻の痛みが治るということがあります。

腸腰筋というお腹側にある筋肉の鼠径部などにトリガーポイントができると背中の腰椎付近に痛みが出ます。腰が痛いということになりますが、原因は実はお腹側にありますのでそこを治療しないと腰の痛みが治らないということです。なんで関連痛が起きているのかというのは、諸説がありはっきりしたことは分かっていません。

ヒラメ筋のトリガーポイントは、痛みを遠くまで飛ばします。ヒラメ筋にトリガーポイントができると頬っぺたに痛みを感じたり、噛み合わせができなくなったりもします。頬を指圧しても治りません。ヒラメ筋のトリガーポイントを指圧すると頬の痛みが消えたり、口の開きが良くなったりします。なんでこんなところに痛みが飛んでいくのかということですが、筋膜ライン上で起きているという仮説があります。体を使うのに都合の良いライン上で痛みが起きているのではないかということです。つまり、ヒラメ筋と頬の筋膜ラインに情報交換システムがありそのために起きていると考えると理解しやすいです。

残念ながら、この関連痛という現象は世間に理解されていません。ですから、痛いところだけに治療が往々にしてなされており、そのために痛みが治らず慢性化して困っていらっしゃる方がたくさんおられると思います。

筋膜ラインは、経絡とよく似ています。洋の東西で同じような見方をしているのではないかとも考えています。

 

■症例①

40代男性。月に数回、鉄の輪で締め付けられるような強烈な頭痛があって仕事に行けない日もあって辛い。触診をすると側頭部に強いコリがあり、そこを指圧しても一向に弛もうとしません。高校生の時。酷い足首のねん挫を経験しており今も痛むことがあるとのこと。そこで、腓骨筋を弛めると側頭部が柔らかくなり、頭痛が改善しました。

 

■症例②

40代女性。数か月前から腕が挙がらなくなり、様々な治療を受けたが改善せず、1週間前から夜に疼いて眠れなくなりました。触診をしたら首の付け根辺りと横隔膜に強い緊張がありました。そこで、横隔膜は体の内圧を調整している重要な器官といわれます。横隔膜の堅さが上半身の緊張を生んでいるので、横隔膜を中心に「深前線」をマッサージしていくと夜に疼くことがなくなりました。

 

■運動療法

次に、運動療法についてお話ししたいと思います。私たちは幼少期からいつの間にか体の使い方を学習しています。それが異常な運動パターンとなり、ある筋の活動低下と別の筋の活動過剰という運動のアンバランスを生じさせ、いろいろな障害に結びつくことがあります。それを修正するためには、脳に正しい運動パターンを再学習させるということが運動療法の大きな視点かなあと思っています。

 

■症例③

運動療法で治療させていただいたのが症例3です。30代女性。首や肩のこりが激しく、吐き気を伴うこともあります。営業もされていてストレスも多い。背中が丸まって、いわゆる猫背状態で見た目にもいかにも肩がこるなあという感じ。胸側の筋肉が過剰に緊張し、背中の筋肉は伸びて力が出なくなっていることが分かります。股関節の動きを診てみると、外側には過剰に動き、内側には動きにくい状態でした。これは、お腹側の筋肉(腸腰筋)が緊張し過ぎて、逆に背中側の筋肉(起立筋)が弱って力がでていない状態を示しています。これらの筋肉のバランスをとると自然と姿勢が良くなってきます。普段使ってない筋肉を使うことでバランスがその場で良くなります。しかし、それは一時的でしかないので、一か月くらい今まで使ってないところを使わせることで、脳に再学習させる必要があります。

 

■まとめ

まとめです。

     痛みを改善するためには「栄養」「運動」「心理」が重要。特にタンパク質、ビタミン、ミネラル不足は慢性化の要因。

     痛む所に原因がない「関連痛」という現象があり、それを理解することで、改善率は大幅にアップする。

     「関連痛」は筋膜ラインで起きていることが多いと思われるので、筋膜ラインへのアプローチが重要。

     体の奥深くを支えている「深前線」は姿勢筋であると共に、内圧に関係している「横隔膜」を構成しているので、様々な症状において深前線の調整は必須。

運動パターンは、機能障害を起こす最も大きな要因であり、脳の学習と関係しているため、運動パターンの修正と再学習のセルフケアは、永続的な改善に繋がると思っています。

 

ご清聴ありがとうございます。



※これは、各講演者の皆様のご講演をお聞きした内容を事務局(若園)が理解した範囲で文書化したものです。従って、ご本人の意図と違う内容になっている場合もあることをご理解の上お読みいただきますようお願いいたします。尚、この文書の一切の責任は、事務局にあります。

《他の講演などへのリンク》
主催者挨拶「その痛みをあきらめないために相互に連携を」
難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事  若園 和朗


講演① 「患者だからできること~慢性痛マネジメントの為のリハビリ生活とヨーガ~」
YOGINI ヨガと子供未来教室代表  新里 美帆


講演② 「暮らしの中の東洋医学 ~こころと体を調え、痛みを和らげる鍼灸~」
真央クリニック附属鍼灸室室長、長湯鍼灸院院長  成田 響太


講演③ 「慢性痛に対する遠絡療法の可能性」
国際医療福祉大学副学長、九州地区生涯教育センター長 外 須美夫


講演④ 「痛みと筋膜」
トリガーポイント研究所所長  佐藤 恒士


講演⑤ 「痛みに漢方治療を!」
平田ペインクリニック院長  平田 道彦

 どげんかせんといかん日本の慢性痛治療
   ~その痛みをあきらめないために相互に連携を~
疼痛ゼロの日福岡感謝

 令和元年11月23日(祝)、JR吉塚駅にほど近い「福岡県中小企業振興センター ホールA」にて百名を超える参加者を得て充実した内容のシンポジウムとなりました。遅れているわが国の慢性痛に対する医療の方向性を示す大きな一歩になったと自負しています。それぞれの講演などの内容は以下の通りです。
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◎主催者挨拶「その痛みをあきらめないために相互に連携を」
  難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事  若園 和朗

 急性痛と慢性痛の違いや、現在作業が行われている国際疾病分類改定に慢性痛が独立した疾患として記述されることなどについて話しました。

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◎講演① 「患者だからできること~慢性痛マネジメントの為のリハビリ生活とヨーガ~」
YOGINI ヨガと子供未来教室代表  新里 美帆

 患者当事者としての経験から、回復に役立ったポイントやその為に行た古典ヨガの説明、そして痛みの感じ方は学習、教育によって変わること、包括的な治療ができる体制づくりの必要性が述べられました。

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◎講演② 「暮らしの中の東洋医学 ~こころと体を調え、痛みを和らげる鍼灸~」
真央クリニック附属鍼灸室室長、長湯鍼灸院院長  成田 響太

 慢性痛治療の基本は、適切な食事、運動、睡眠、メンタルマネージメントで、日々の暮らしの中に、原因とその解決策があること、心と体のつながり、西洋医学と東洋医学など様々な治療法を連携させる事への期待などが症例報告と共に語られました。


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◎講演③ 「慢性痛に対する遠絡療法の可能性」
国際医療福祉大学副学長、九州地区生涯教育センター長 外 須美夫

 慢性痛の発生メカニズムの説明と、慢性痛の治療には患者さんを支える優しい医療が大切であること、その治療戦略として「生活のゆがみを調える」ことや「脳科学で脳内のゆがみを調える」ことが考えられ、「遠絡」も戦略の一つとして紹介されました。



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◎講演④ 「痛みと筋膜」
トリガーポイント研究所所長  佐藤 恒士

 痛みを改善するためには「栄養」「運動」「心理」が重要であること、痛む所に原因がない「関連痛」という現象がありそれを理解することで改善率が大幅にアップすること、運動パターンの修正と再学習のセルフケアは、永続的な改善に繋がることなどが症例報告を通して説明されました。



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◎講演⑤ 「痛みに漢方治療を!」
平田ペインクリニック院長  平田 道彦

 「痛み」は、神経や筋肉や骨が痛いというだけではなく、その人の体質、性格、生活、これまでの歴史、現在の状況、将来に対する不安など全部含めてその人の「痛み」と捉える必要があり、そうした面での治療に漢方が有効であることを症例を通して主張されました。

疼痛ゼロの日シンポジウム2019 in 福岡 
令和元年11月23日(祝)
どげんかせんといかん日本の慢性痛治療 ~その痛みをあきらめないために相互に連携を~
内容報告


《講演③》慢性痛に対する遠絡療法の可能性

国際医療福祉大学副学長 九州地区生涯教育センター長 
外須美夫

 

私は、慢性痛の治療に携わっています。そして遠絡療法をやるようになって、今は遠絡療法中心の外来をしています。遠絡療法と言っても初めて聞く方が多いと思います。今日は、遠絡療法とは何かということを皆さんにお伝えしたいと思います。

 

■やっかいな痛み慢性痛

ちょうど、今年の7月にテレビで「やっかいな痛み慢性痛」という番組が放送されましたのでまずは観てください。

・・「痛み、それは危険を知らせる信号です。通常は、その危険が解消されればその痛みはなくなります。ところが、特に異常が見つからなくても痛むのが慢性痛。慢性痛は、60歳以上の4人に一人が抱えていると言われていて生活習慣病に匹敵するほど社会にまん延しているのです。全国で230万人が重症の慢性痛に苦しんでいるのに、きちんと治療を受けているのは3分の1・・」

・・「一般的に慢性の痛みというのは、痛みが数か月以上続く・・そういう痛みを慢性痛と言っています。そんな慢性痛の中でも特につらいのが神経障害性疼痛です。神経が障害を受けたあとの痛みで、代表的なものとして帯状疱疹後神経痛、脳卒中の後の後遺症。そういう患者さんは痛みをずっと抱えておられます。なぜ、痛みが長く続くのかというと、神経が傷害されたあと、脊髄や脳でいろんな変化・変容が起こり痛みを感じやすい、痛みに過敏な状態が作られてしまうからだと説明されることがあります。」・・という形で番組は始まりました。

 

■患者を支える優しい医療

今日は慢性痛がテーマです。慢性痛にどう対処したらよいかということで、日本ペインクリニック学会など疼痛治療に関わっているいろんな方々が集まって「慢性疼痛治療ガイドライン」が作られました。あるいは、腰痛ガイドラインとか、いろいろな学会がガイドラインを作ります。これらはエビデンスに基づいて作られています。

ですが今日紹介する遠絡療法はそれらには載っていません。ただ、患者さんにとって良い治療とは患者さんにとって優しく副作用の少ない、患者さんを支えながら効果をあげていくものも大切なのではないかと思い私は遠絡療法に取り組んでいます。

 

■生活のゆがみを調えるという戦略

慢性痛の対処としていくつかの戦略がありますが、まずは、慢性痛は心身のゆがみからきているのでそれを調えるため、「日常生活のゆがみを調整する」という戦略があります。

     食事のゆがみを調えるには、過食偏食を無くす。抗炎症食を選ぶなどをしていきます。

     自律神経のゆがみを調えるために、緊張やストレスを軽減し副交感神経を優位にしていく必要があります。

     骨筋肉のゆがみを調えるには、姿勢、服装、靴、まくらなどに気を付けたり、ストレッチしたりマッサージや整体、体操などを利用したりすると良いかもしれません。

     心のゆがみを調えるとは、例えば怒り妬み執着などを消していくことです。

     運動は、痛みの特効薬と言われます。痛みが強いと運動は困難かもしれませんが目標として運動を取り入れていくことが大事です。

 

■脳科学で脳内のゆがみを調えるという戦略

二番目には、痛みは脳で最終的に感知し、意識し、認識するので、「脳科学」に注目していくという戦略があります。医学・科学などの進歩で、脳神経系の働きが手に取るようにわかるようになってきて、痛みの仕組みも画像でわかるようになってきています。急性痛と慢性痛の違いについても、けがや手術直後の痛みである急性痛では、僅かに5%しか脳神経が活動(発火)していません。しかし慢性痛の患者さんでは、そのおよそ41525%と広範囲の脳が活動していることが分かっています。慢性痛は、痛みを感じることで、どんどん「いやだなあ」という感情などが複雑に絡み合って活性化して、過敏な状態を作っていくと言われています。

では、そうしたゆがんだ状態にならないようにするにはどうしたらよいかというと、まずは、脳に痛みの信号が入ってこないようにすることが考えられます。神経ブロック、抗炎症薬が効いて痛みが和らげば良いわけです。また、鎮痛補助薬といって脊髄レベルで入ってくるのを抑える薬もあります。しかし、こうした薬が痛みを感じる神経だけに働いてくれればいいのですが、脳の中でせっかく治そうとしている力を、別の力でゆがめてしまうことがあるので要注意です。ですから、例えばオピオイドには、もちろん強い鎮痛作用がありますが、脳の中でいろいろな(悪い)働きもしてしまうので慢性痛に使うのは難しいのです。

 

また、痛みの情報が入ると脳のいろいろな部分が活性化しますのでそれぞれの部分を調整することが大切かもしれません。

「前頭前野」の調整には、「痛いから何もできない」ということに縛られずに、「これならできる、こうすればできる」という捉え方に変えていく、認知行動療法の手法が有効でしょう。

また、「運動野」を調整して痛いところが動かせるというイメージをもたせる。そのための鏡を使った鏡療法は、すでに行われています。

「前帯状回」の調整は、ストレスをコントロールし陽性期待感が持てるようにすることです。

「側坐核」は報酬を受けると活性化するのですが、慢性痛の患者さんはここの機能が低下しているので楽しみや希望を持つことによって報酬系が活性化し側坐核の働きを良くしていきます。このように、脳科学をうまく使って慢性痛を治療していくという戦略が考えられます。

 

■遠絡という戦略

今日ご紹介する戦略は、遠絡療法です。西洋医学は、目に見えるものを対象としますが、東洋医学は見えないもの動いているもの、出来事を対象にします。漢方薬は体の内側から、鍼灸療法は体の外側から血液の流れ、水の流れ、気の流れを調えてあげる、それによって慢性痛を良くしようという方法です。その中でも私たちはツボ押しの一つとして遠絡療法という治療法を行っています。「遠絡」つまり、遠くを連絡させるという方法です。いわゆる東洋医学的な経絡理論に沿っているのですが、痛いところには触らずそこから離れたところを刺激することによって痛いところに起きている流れの障害をとってあげて痛みを解決していく、そういうような考え方です。

遠絡療法は、「柯尚志(こう・しょうし/Shan Chi Ko)」先生が開発されたものです。20034年ころ始められました。経絡には流れがありますがその流れが滞ると痛みが起こります。痛みがある場所を流そうとするが流れない。でも経絡に沿って別の場所につなげば流れるという考え方です。では、何が流れているのかというと「気」の流れですが・・柯先生は、「Life:命の流れ」と言っていました。初めは信じられなかったので、ある治りにくい痛みの患者さんを治すことができたら信じようと考え遠絡治療をしたのですが、見事にその患者さんの痛みがとれました。痛みだけではなく手足の血管の状態、器質的な改善もみられました。それで私もびっくりして、その治療を患者さんに施すようになり、学会などで発表もするようになりました。遠絡療法の特徴は、少しの勉強だけでだれにでもできるようになるということです。

 

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・・「生活習慣病に匹敵するほど社会にまん延している慢性痛。その治療の基本的な考え方は、たとえ痛みが完治できないとしても日常生活に支障をきたさないようにすることです。そのためには薬物療法だけでなくリハビリテーションや心理療法、東洋医学などあらゆる治療法を駆使して行う必要があります。」・・

・・「遠絡は、新しく日本で生まれた東洋医学と西洋医学をミックスしたような療法です。手法としてはツボ押しです。ただ、鍼とか灸とかは使いません。遠絡療法では、普通専用の棒を使いますが、今回は赤外線のレーザーを使います。ツボにレーザーをあてます。「気」を動かしていく道具としてこのレーザーを使います。これを使うと患者さん自身はなにも感じません。」・・

・・「遠絡療法には、副作用がないのでお年寄りや子供にも安心して使えます。しかも、治療後すぐに効果を実感する人も少なくないそうです。」・・

 

■まとめ

遠絡療法は、難治性の痛みをもった方で標準的な治療では効果がなかった人に対して一つの選択肢としてためしてみてもいい治療ではないかと思います。

漢方薬、鍼灸、ヨガなど慢性痛に対してはいろいろなアプローチがあります。また、私の治療で治らない患者さんもいるということも知っておいていただきたいと思います。

 ご清聴ありがとうございました。

※これは、各講演者の皆様のご講演をお聞きした内容を事務局(若園)が理解した範囲で文書化したものです。従って、ご本人の意図と違う内容になっている場合もあることをご理解の上お読みいただきますようお願いいたします。尚、この文書の一切の責任は、事務局にあります。

《他の講演などへのリンク》
主催者挨拶「その痛みをあきらめないために相互に連携を」
難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事  若園 和朗


講演① 「患者だからできること~慢性痛マネジメントの為のリハビリ生活とヨーガ~」
YOGINI ヨガと子供未来教室代表  新里 美帆


講演② 「暮らしの中の東洋医学 ~こころと体を調え、痛みを和らげる鍼灸~」
真央クリニック附属鍼灸室室長、長湯鍼灸院院長  成田 響太


講演③ 「慢性痛に対する遠絡療法の可能性」
国際医療福祉大学副学長、九州地区生涯教育センター長 外 須美夫


講演④ 「痛みと筋膜」
トリガーポイント研究所所長  佐藤 恒士


講演⑤ 「痛みに漢方治療を!」
平田ペインクリニック院長  平田 道彦

 

 

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