疼痛ゼロの日シンポジウム2019 in 福岡 
令和元年11月23日(祝)
どげんかせんといかん日本の慢性痛治療 ~その痛みをあきらめないために相互に連携を~
内容報告


《講演③》慢性痛に対する遠絡療法の可能性

国際医療福祉大学副学長 九州地区生涯教育センター長 
外須美夫

 

私は、慢性痛の治療に携わっています。そして遠絡療法をやるようになって、今は遠絡療法中心の外来をしています。遠絡療法と言っても初めて聞く方が多いと思います。今日は、遠絡療法とは何かということを皆さんにお伝えしたいと思います。

 

■やっかいな痛み慢性痛

ちょうど、今年の7月にテレビで「やっかいな痛み慢性痛」という番組が放送されましたのでまずは観てください。

・・「痛み、それは危険を知らせる信号です。通常は、その危険が解消されればその痛みはなくなります。ところが、特に異常が見つからなくても痛むのが慢性痛。慢性痛は、60歳以上の4人に一人が抱えていると言われていて生活習慣病に匹敵するほど社会にまん延しているのです。全国で230万人が重症の慢性痛に苦しんでいるのに、きちんと治療を受けているのは3分の1・・」

・・「一般的に慢性の痛みというのは、痛みが数か月以上続く・・そういう痛みを慢性痛と言っています。そんな慢性痛の中でも特につらいのが神経障害性疼痛です。神経が障害を受けたあとの痛みで、代表的なものとして帯状疱疹後神経痛、脳卒中の後の後遺症。そういう患者さんは痛みをずっと抱えておられます。なぜ、痛みが長く続くのかというと、神経が傷害されたあと、脊髄や脳でいろんな変化・変容が起こり痛みを感じやすい、痛みに過敏な状態が作られてしまうからだと説明されることがあります。」・・という形で番組は始まりました。

 

■患者を支える優しい医療

今日は慢性痛がテーマです。慢性痛にどう対処したらよいかということで、日本ペインクリニック学会など疼痛治療に関わっているいろんな方々が集まって「慢性疼痛治療ガイドライン」が作られました。あるいは、腰痛ガイドラインとか、いろいろな学会がガイドラインを作ります。これらはエビデンスに基づいて作られています。

ですが今日紹介する遠絡療法はそれらには載っていません。ただ、患者さんにとって良い治療とは患者さんにとって優しく副作用の少ない、患者さんを支えながら効果をあげていくものも大切なのではないかと思い私は遠絡療法に取り組んでいます。

 

■生活のゆがみを調えるという戦略

慢性痛の対処としていくつかの戦略がありますが、まずは、慢性痛は心身のゆがみからきているのでそれを調えるため、「日常生活のゆがみを調整する」という戦略があります。

     食事のゆがみを調えるには、過食偏食を無くす。抗炎症食を選ぶなどをしていきます。

     自律神経のゆがみを調えるために、緊張やストレスを軽減し副交感神経を優位にしていく必要があります。

     骨筋肉のゆがみを調えるには、姿勢、服装、靴、まくらなどに気を付けたり、ストレッチしたりマッサージや整体、体操などを利用したりすると良いかもしれません。

     心のゆがみを調えるとは、例えば怒り妬み執着などを消していくことです。

     運動は、痛みの特効薬と言われます。痛みが強いと運動は困難かもしれませんが目標として運動を取り入れていくことが大事です。

 

■脳科学で脳内のゆがみを調えるという戦略

二番目には、痛みは脳で最終的に感知し、意識し、認識するので、「脳科学」に注目していくという戦略があります。医学・科学などの進歩で、脳神経系の働きが手に取るようにわかるようになってきて、痛みの仕組みも画像でわかるようになってきています。急性痛と慢性痛の違いについても、けがや手術直後の痛みである急性痛では、僅かに5%しか脳神経が活動(発火)していません。しかし慢性痛の患者さんでは、そのおよそ41525%と広範囲の脳が活動していることが分かっています。慢性痛は、痛みを感じることで、どんどん「いやだなあ」という感情などが複雑に絡み合って活性化して、過敏な状態を作っていくと言われています。

では、そうしたゆがんだ状態にならないようにするにはどうしたらよいかというと、まずは、脳に痛みの信号が入ってこないようにすることが考えられます。神経ブロック、抗炎症薬が効いて痛みが和らげば良いわけです。また、鎮痛補助薬といって脊髄レベルで入ってくるのを抑える薬もあります。しかし、こうした薬が痛みを感じる神経だけに働いてくれればいいのですが、脳の中でせっかく治そうとしている力を、別の力でゆがめてしまうことがあるので要注意です。ですから、例えばオピオイドには、もちろん強い鎮痛作用がありますが、脳の中でいろいろな(悪い)働きもしてしまうので慢性痛に使うのは難しいのです。

 

また、痛みの情報が入ると脳のいろいろな部分が活性化しますのでそれぞれの部分を調整することが大切かもしれません。

「前頭前野」の調整には、「痛いから何もできない」ということに縛られずに、「これならできる、こうすればできる」という捉え方に変えていく、認知行動療法の手法が有効でしょう。

また、「運動野」を調整して痛いところが動かせるというイメージをもたせる。そのための鏡を使った鏡療法は、すでに行われています。

「前帯状回」の調整は、ストレスをコントロールし陽性期待感が持てるようにすることです。

「側坐核」は報酬を受けると活性化するのですが、慢性痛の患者さんはここの機能が低下しているので楽しみや希望を持つことによって報酬系が活性化し側坐核の働きを良くしていきます。このように、脳科学をうまく使って慢性痛を治療していくという戦略が考えられます。

 

■遠絡という戦略

今日ご紹介する戦略は、遠絡療法です。西洋医学は、目に見えるものを対象としますが、東洋医学は見えないもの動いているもの、出来事を対象にします。漢方薬は体の内側から、鍼灸療法は体の外側から血液の流れ、水の流れ、気の流れを調えてあげる、それによって慢性痛を良くしようという方法です。その中でも私たちはツボ押しの一つとして遠絡療法という治療法を行っています。「遠絡」つまり、遠くを連絡させるという方法です。いわゆる東洋医学的な経絡理論に沿っているのですが、痛いところには触らずそこから離れたところを刺激することによって痛いところに起きている流れの障害をとってあげて痛みを解決していく、そういうような考え方です。

遠絡療法は、「柯尚志(こう・しょうし/Shan Chi Ko)」先生が開発されたものです。20034年ころ始められました。経絡には流れがありますがその流れが滞ると痛みが起こります。痛みがある場所を流そうとするが流れない。でも経絡に沿って別の場所につなげば流れるという考え方です。では、何が流れているのかというと「気」の流れですが・・柯先生は、「Life:命の流れ」と言っていました。初めは信じられなかったので、ある治りにくい痛みの患者さんを治すことができたら信じようと考え遠絡治療をしたのですが、見事にその患者さんの痛みがとれました。痛みだけではなく手足の血管の状態、器質的な改善もみられました。それで私もびっくりして、その治療を患者さんに施すようになり、学会などで発表もするようになりました。遠絡療法の特徴は、少しの勉強だけでだれにでもできるようになるということです。

 

■番組の続きを観てみましょう

・・「生活習慣病に匹敵するほど社会にまん延している慢性痛。その治療の基本的な考え方は、たとえ痛みが完治できないとしても日常生活に支障をきたさないようにすることです。そのためには薬物療法だけでなくリハビリテーションや心理療法、東洋医学などあらゆる治療法を駆使して行う必要があります。」・・

・・「遠絡は、新しく日本で生まれた東洋医学と西洋医学をミックスしたような療法です。手法としてはツボ押しです。ただ、鍼とか灸とかは使いません。遠絡療法では、普通専用の棒を使いますが、今回は赤外線のレーザーを使います。ツボにレーザーをあてます。「気」を動かしていく道具としてこのレーザーを使います。これを使うと患者さん自身はなにも感じません。」・・

・・「遠絡療法には、副作用がないのでお年寄りや子供にも安心して使えます。しかも、治療後すぐに効果を実感する人も少なくないそうです。」・・

 

■まとめ

遠絡療法は、難治性の痛みをもった方で標準的な治療では効果がなかった人に対して一つの選択肢としてためしてみてもいい治療ではないかと思います。

漢方薬、鍼灸、ヨガなど慢性痛に対してはいろいろなアプローチがあります。また、私の治療で治らない患者さんもいるということも知っておいていただきたいと思います。

 ご清聴ありがとうございました。

※これは、各講演者の皆様のご講演をお聞きした内容を事務局(若園)が理解した範囲で文書化したものです。従って、ご本人の意図と違う内容になっている場合もあることをご理解の上お読みいただきますようお願いいたします。尚、この文書の一切の責任は、事務局にあります。

《他の講演などへのリンク》
主催者挨拶「その痛みをあきらめないために相互に連携を」
難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事  若園 和朗


講演① 「患者だからできること~慢性痛マネジメントの為のリハビリ生活とヨーガ~」
YOGINI ヨガと子供未来教室代表  新里 美帆


講演② 「暮らしの中の東洋医学 ~こころと体を調え、痛みを和らげる鍼灸~」
真央クリニック附属鍼灸室室長、長湯鍼灸院院長  成田 響太


講演③ 「慢性痛に対する遠絡療法の可能性」
国際医療福祉大学副学長、九州地区生涯教育センター長 外 須美夫


講演④ 「痛みと筋膜」
トリガーポイント研究所所長  佐藤 恒士


講演⑤ 「痛みに漢方治療を!」
平田ペインクリニック院長  平田 道彦