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大麻の医療目的使用を妨げるマリファナ解禁論

 

1 はじめに

 昨年暮れ、国連麻薬委員会はこれまで禁じていた大麻の医療利用を認める判断をしました。賛成27、反対25、棄権1と半数近くの国が反対する中での採決です。日本政府も反対票を投じましたが、厚労省はすでに大麻製剤の治験を認める判断をしていますので(参1、それとは矛盾した意思表示です。我が国は、なぜ大麻の医療利用を認めることができないのでしょうか。

 大麻(マリファナ等)は乱用すれば社会や個人の健康安全への脅威となる薬物です。しかし、その作用機序が明らかになるにつれ、これまで治療の手立てのなかった患者を救うための医薬品としても期待されるようになってきました。であるなら、モルヒネなどと同じように乱用は禁じ、医療目的だけ認めればよいと考えるのが自然です。ですが、日本だけでなく世界中の多くの国で医療目的使用と快楽目的など非医療使用との切り離しができず歪んだ状況が続いています。

 この歪みを解消して必要な患者に必要な大麻の薬効を届けることはできないのでしょうか。以下の文をお読みいただきこの複雑な問題解決のための一助としていただけましたら幸いです。

 

2 若者の未来を奪うマリファナ解禁論

 近年、我が国において若者の大麻の乱用増加が社会問題になっています(参2)。その原因の一つは、大麻の娯楽目的使用を解禁したいと目論むいわゆるマリファナ解禁論者が、大麻は安全などとSNSなどで拡散していることだと言われています。若年層の大麻常用は、知能低下、自殺の増加など彼らの未来に深刻な害を及ぼすとの報告が増えているにも関わらず (参3)本当に残念で腹立たしい行いです。

 

3 間違ったメッセージ

 そんな中での、国連麻薬委員会の決定です。日本政府などは一定の医療的価値を認めながらも反対し、その理由として、大麻の規制が緩和されたとの「誤解」を招き、大麻の乱用を助長するおそれがあること(4)、特に青少年の非医療的使用の増加が心配されることを挙げました (参5)

 この国連麻薬委員会の決定について、日経新聞は、「大麻を“最も危険”分類から削除」とのタイトルで報道しました。ですが実際は乱用や中毒の危険性については三段階のうちの最も危険な分類のまま変更しておらず「“医療用途がない”分類から削除」と表すのが「誤解」を避けるためには適切です。大手新聞がこのような「大麻の害は大した事がない」という間違ったメッセージになりかねない形で報道してしまう状況では、日本政府が「誤解」を心配し反対するのも当然でしょう。日経新聞の報道方針に不安と疑問を感じます(6)こうした「誤解」を生む情報があちらこちらに見られるようになっています。

 

4 賢明な判断を損ねる陰謀論

 睡眠薬にしろ、痛み止めにしろ、医療目的のものを目的外に使ってはいけないのは当たり前ですが、大麻の場合それを理解できず「薬になるのだから安全、健康に良い」と解釈する残念な層が一部に存在するため大麻を医療目的に使用することをややこしくしています。

 そのほか、「天然のものだから体に優しい」とか、「もともと体内にあるものだから安心」などという合理的とは言い難い理由で害がないかのように語ったり、あるいは、大麻規制の歴史をほじくり返して陰謀論を仕立て上げ、マリファナ解禁論が正義であるかのように喧伝したりする人までいます。

 また、深刻な薬物禍に苦しむ欧米の一部の国がとっている「ハームリダクション」つまり、「現実に即した薬物危機の低減政策」の一環で行うマリファナへの寛容化を日本に当てはめるのも的外れです。もちろん、依存症になってしまった患者への治療方針など学ぶべき点は多いことは認めます。しかしそれ以前に、我が国は規制薬物の乱用が格段に少ない薬物禍から守られた社会である(4)ことを誇りとして、マリファナ等の蔓延防止に最善を尽くすことが肝要なのではないでしょうか。予防に勝る治療はないのですから。

 

5 最悪のドラッグラグ「医療大麻問題」

 筆者は、7年前“最悪のドラッグラグ「医療大麻問題」”と題し脊髄損傷後の激しい痛みと対峙する患者家族の立場から、大麻の医療目的使用の許可を求める文章を公表しました(参7)

 それは、ネット上に拡散されましたが、その多くが快楽目的と医療利用をごっちゃに語り、マリファナ解禁を正当化するためのものでした。快楽目的と医療利用では次元が全く違う事柄です。また医薬品を自由勝手に使えば害が益を上回るのは必至で、病に苦しむ患者をさらに窮地に追い込むことになります。

 患者を救いたいとの願いで公開した文でしたが、趣旨に反する反応に困惑しました。このようなマリファナ解禁論者の言動があるため、純粋に大麻の医療目的使用を求める患者や医療者は声を挙げづらくなっています。

 

6 大麻等の薬物対策のあり方検討会

 こうした複雑な大麻問題の解決を目指して厚労省は「大麻等の薬物対策のあり方検討会」をこの1月に立ち上げました。この検討会を通じて、ほかに治療の手立てのない患者には厳格な医学的な管理のもと大麻が施用できる体制づくりのための方向付けがなされることを期待します。その中で最大の課題とすべきは、安易なマリファナ解禁論の拡散をいかにくい止めるかいうことではないかと思うのですがいかがでしょう。

 

《付記》大麻とマリファナについて

 大麻とは本来、アサ科アサ属つまり植物としてのアサ(麻)の別名で、亜麻(リネン:アマ科)や苧麻(ラミー:イラクサ科)やその他の「麻」と呼ばれる植物との混同を避けるためなどに用いられる名称です。そこから転じて「神社のお札」「アサから作られるマヤク」などの意味に用いられます。この文章では、「大麻取締法(参8)」上の「大麻」、即ちアサの乱用目的で使用される可能性のある部位である主に葉と花穂とそれから作られる製品の意味で用いました。

 アサから作られるマヤクは、マリファナ・ガンジャ・ハシシなどと呼ばれますが本文ではこれらをまとめて「マリファナ等」または「マリファナ」としました。

 

【参考URL

(1http://medg.jp/mt/?p=8992

(2https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201806/3.html

(3) https://newsroom.unsw.edu.au/news/health/daily-cannabis-users-less-likely-finish-high-school 

  https://www.drugabuse.gov/publications/research-reports/marijuana/what-are-marijuanas-long-term-effects-brain

(4) https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000723426.pdf

(5) https://www.unodc.org/documents/commissions/CND/CND_Sessions/CND_63Reconvened/statements/02Dec_partI/Japan.pdf

(6) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66935310T01C20A2I00000

(7) http://medg.jp/mt/?p=2081

(8) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000124

 

 なお、筆者は、伝統継承目的の麻栽培が認められた地域に生まれ育ち、言わば日本の大麻を守るべき立場にいます。日本の麻の伝統は乱用とは無縁ですが、マリファナ解禁論のあおりを受けて存続の危機にあります。この件については、別に述べさせていただきたいと思います。

 

難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事

日本麻協議会事務局代表

若園和朗

医療ガバナンス学会 (2021年2月22日 06:00)より転載しました。
Vol.037 大麻の医療目的使用を妨げるマリファナ解禁論 | MRIC by 医療ガバナンス学会 (medg.jp)

 令和2年7月25日 野田聖子先生の事務所を岐阜県議会議員の伊藤秀光先生とともに訪問し、日本の麻の保護のための要望書を提出しました。内容は以下の通り。

日本の麻(大麻)の伝統保護ならびに有効活用に関するするお願い

 大麻は、その葉や花穂に含まれる向精神物質THCの働きにより乱用が心配される植物です。一方で、日本の伝統文化を支えるとともに循環型の資源としても有望な作物でもあります。また、わが国在来の大麻は、遺伝的にTHCの含有率が低く、乱用の心配がない品種ともいわれています。
 戦後の混乱期に制定された「大麻取締法」は、本来その乱用を防ぎつつ当時国民にとって必要不可欠な作物であった大麻の栽培を守るための法律だったはずです。しかし、現在は乱用防止の側面だけが強調され、正当な目的の栽培者まで数々の制約を受け、栽培の継続は困難を極めています。また、わが国においては、歴史的に大麻の葉や花穂を乱用する習慣などは見られず、日本の大麻文化は乱用とは何の関係もありません。しかし日本の大麻の伝統と乱用を敢えて混同させ、大麻の乱用を勧めようとする残念な人々が存在し、一般の人々が持つ日本の大麻のイメージを極めて悪いものにしています。
 このような困難な状況ではありますが、伝統文化を支え循環型の資源としても有望な一般作物としての日本の大麻とその栽培者並びに加工技術を守るため、以下の要望をいたします。

  1. 有害成分の正体であるTHCの含有率に基づいた基準を定め、低THCの大麻を農作物として保護するとともに、保健衛生上の害をもたらさないと判断される新規栽培免許取得希望者には、免許を付与されることが可能となるような方向で、制度の転換をお願いします。

  2. 現在厚生労働省の単独管轄のように扱われている「大麻取締法」を、制定当時と同じように実質的に農林水産省との共同管轄となるように働きかけをお願いします。

  3. 正当な目的をもった栽培者やその継承者、そうした方々の賢明な意見を尊重しつつ、有毒大麻乱用の危険性の啓蒙など乱用防止の対策をなお一層進めてください。

  4. 戦前においては、有毒な外国の大麻を印度大麻草と呼び痲薬に指定し、日本の大麻は普通の農作物と区別して考えていました。このように、呼び方を変えるなどして無毒な大麻と有毒な大麻のイメージの切り離す施策をお願いします。

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    3月に種をまき7月末に刈り取り。4か月ほどで3m以上に成長する麻は、バイオマス燃料としても有望かもしれません。


 岐阜県神戸町にて、映画「つ・む・ぐ」本編と「麻てらす」の予告編の上映会を行います。映画を制作した吉岡敏朗監督を囲んでのお話し会も予定しています。みな様のご参加お待ちしています。

【日 時】平成28年7月24日(日)と7月31日(日)の2回
     14時00分~16時30分

【場 所】広神戸駅前「山王ぎゃらりー」
 (岐阜県安八郡神戸町 養老鉄道 広神戸駅すぐまえ)

【料 金】500円(全額 熊本地震義援金として寄附いたします)

【内 容】映画「つ・む・ぐ 」本編上映
     映画「麻てらす」予告編上映
     吉岡敏朗監督によるお話し会
     麻や神戸祭りについてのお話し会


 ◎映画「つ・む・ぐ 」について

  映画「つ・む・ぐ 」予告編  

 
 

 ◎映画「麻てらす」について

  映画「麻てらす」予告編



【麻の栽培で最も困っていること】

 私は、乱用できないよう品種の管理体制を確立し、安心して麻の栽培が出来る社会を目指しています。

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 しかし、いわゆるマリファナ解禁派などと呼ばれる人たちが、しきりに大麻の嗜好利用は良いことのように喧伝し、また伝統的な大麻栽培とごっちゃに論じようとするので困っています。

 皆さんは、ネット上のこうした情報に惑わされないでください。

 このような動きが伝統的な大麻栽培を困難にし、一般国民の理解の足かせになっています。

 大麻を嗜好利用した場合の個人の健康や社会に対する害を甘く見るべきではありません。

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 我国は、薬物乱用の少ない国です。
 また、わが国在来の麻(大麻)はもともと有害物質であるTHCの含有率が低い品種で従って乱用とは無縁です。


【麻栽培の正常化に向けて・・・願い】
 こちらもご覧ください。↓

正義は、時どき
わがままで

平等は
新たな不公平をうみ

無駄をなくせば
大事なことも削られる。

不安にならないように説明されると
よけい不安になり

ほんとは知らないほうがよいことも
ついつい知りたくなってしまう。

しばしば嘘の方が
信じられやすく

本当の敵は、
味方のふりをしているかもしれない。

とにかく、
世間はややこしく

それでも
未来は・・・きっと明るい

皆様、良い週末を!!

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